『星の王子さま』のこと

映画『デルタ 小川国夫原作オムニバス』のプロデューサー仲田恭子は、
これまで演出家として、数々の小川国夫作品を舞台化しています。
現在とりくんでいるのは、というと、小川作品ではなくて
サン=テグジュペリの『星の王子さま』だそうです。
題して「星の王子さまプロジェクト」!
これは、市民参加型のワークショップによってつくられる劇で、
参加資格は「あらゆる日常に生きる女性」。
場所は基本的に横浜で、週1回、創作のためのエクササイズを行い、
いろんなキーワードをもとにしてシーンを作成していくのだそうです。
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『星の王子さま』で、思い出した小川国夫の文章がありました。
小川さんが晩年に教鞭をとっていた大阪芸術大学文芸学科で、
出していた『河南(かなん)文学』という雑誌があります。
その第3号の編集後記で「リアリズムを越えるもの」と題して書かれている文章です。
そのとき小川さんは、ギイ・グラヴィス劇団の『星の王子さま』公演を観た
直後だったようです。『星の王子さま』の舞台はサハラ砂漠ですが、
サン=テグジュペリほどではないにしても、砂漠の魅惑を知っていた小川さんは、
不安な青春を送っていた自分を照らし出すものとして『星の王子さま』を捉えて、
「〈死〉が眼近に感じられるほど、あるがままに人間が見えてくる…。
 なぜなら生の中には例外なく死があるのだから…」と書いています。
そして、学生だった私たちに呼びかけるように、つづけています。
「若者たちはサンテ・エグジュペリの砂漠とは違う砂漠を、
 彼と同じようにさ迷っている。そして彼と同じように一人ぼっちだ。
 …鍵は、その孤立した姿のかたわらに、星の王子さまに相当する
 どのような幻影が現われているかだ。」
さて、映画『デルタ』には、どのような幻影が現われているでしょうか?
下窪俊哉