12月21日(火)大阪シネ・ヌーヴォでの上映初日、『小川国夫生誕祭』の特別ゲスト司修さんの作品を少し紹介します。
本日紹介するのは、今年発刊された司さんの新作『蕪村へのタイムトンネル』(朝日新聞社)です。
この小説は、2008年4月から2009年8月までの1年4か月の期間、静岡新聞に連載されました。
この小説の大きな特徴は、章ごとに与謝野蕪村の俳句(一部は蕪村以外の人物の俳句)が付され、その後に文章が書かれていることにあります。蕪村の俳句と司 修さんの文章は絶妙に絡み合い、読者は俳句と文章(小説)のあいだを行き来して読み進むことになります。時に引き返して文章を読み直したり、句を口ずさんだり、ちょっと得難い読書体験となること請け合いの一冊です。
映画の看板描きとして働く十七歳の「僕」の語り口は、人懐っこく親しみやすいのですが、この小説は所謂青春の回顧談には留まっていません。作家が何十年にも渡って取り組んできた戦争、暴力、搾取といったテーマに向き合っていることが全編を通じて伝わってきます。かといって「重厚」という言葉を付するのも適切ではないでしょう。蕪村と「僕」を隔てる三百年にも及ぶ時空の溝をひょいっと一跨ぎするような「軽み」に貫かれているのが、本書の魅力の一つではないでしょうか。
『蕪村へのタイムトンネル』には、悪友(?)小川国夫も登場します。エキストラという感じではなく、タイムトンネルへと導く水先案内人として、小川国夫(作品)が出てくるのです。
悪友とは、そのひと自身が悪いのではなく、友人に悪い影響を与えてしまう人物だとすれば、まさに司さんにとって、小川国夫は悪友だったのだと思わずにいられない、闇のあたたかみを伝える文章がここにはあります。司さんの純粋な感受性こそが、与謝野蕪村という歴史的人物の作品をいきいきと描かしめたと思うのです。
年末から年明けにかけて、長編小説をお探しなら、『蕪村へのタイムトンネル』をおススメします。ぜひご一読を!
※『小川国夫生誕祭』は、メールでの予約も承っております。詳しくは下記を参照下さい!
http://www.cinenouveau.com/
井川 拓