12月21日(火)大阪シネ・ヌーヴォでの上映初日、『小川国夫生誕祭』の特別ゲスト司修さんの作品を少し紹介します。
本日紹介するのは、歴史学者網野善彦さんと司修さんとの共作『河原にできた中世の町』(岩波書店)という絵本です。なぜこの本を選んだのか、それには訳があります。それはこの絵本の舞台が<デルタ>だからなのです!
歴史学者網野善彦さんは、「日本=農耕民族社会」という概念にメスを入れ、それまで埋もれてきた海民や職人などが果たしてきた役割に着目し、日本社会の多様性を示してきました。その業績は、転換点にある現代においてさらに重要性を増していくでしょう。そんな網野善彦さんが、歴史学という領域から、絵本という全く異なる領域に挑戦したのが本書でした。『河原にできた中世の町』というタイトルになっていますが、河原を舞台とし、人類誕生前から現代までの壮大な時間の推移が絵巻物ふうに語られています。
網野さんのパートナーに選ばれたのが、司修さん。なぜ絵巻物を技法として習得した日本画の作家ではなく、幻想的な作風を得意とする司修さんが選ばれたのでしょうか。
その理由ではありませんが、この絵本をつくるための前提条件を網野善彦さんはこう語っておられます。
「司さんの目と私の目が重なって、同じ一つの目で対象が見えるようになるまでは決して作るまい」
司さんの耳を信じ、目にすべてを託せると網野さんが信じられたからこそ、このまったく類を見ない絵本が生みだされたのだと思うのです。
<平安時代末~鎌倉時代の中州と河原>の頁には、こんな文章が載っています。
中州や河原ではいろいろなことがおこります。そこはあの世に人を送り、あの世からの声を聞く場所でした。境で働く人びとがまずそこに住みつきます。
映画『デルタ』に関心を持って頂いた方には、是非手にしてもらいたい一冊、それが『河原にできた中世の町』です。
※『小川国夫生誕祭』は、メールでの予約も承っております。詳しくは下記を参照下さい!
http://www.cinenouveau.com/
井川 拓